受容とマインドフルネス                     竹腰重徳 

  受容とは、今という体験を何の判断や評価をせず、ありのまますべてを否定も肯定もせず、受け入れることです。私たちは、受容する能力を強化することで、今ここに起こっているどのような体験も受け入れられるようになり、自分の置かれた状況を認識し、置かれた状況の限度内において新たな可能性と解決策を見つけることができるようになります。受容は鵜呑みにしたり妥協や賛成とは違います。生じてくる現象をあるがままにそっくりそのまま、心のスペースを開いて包容してあげることです。こうすることで体験により発生する個々の感情や苦しみの何たるかの洞察を深めて、解決策が見つかるのです。物事はいつも思い通りにはいかないのだと受け入れながらも、最後にはすべてうまくいくと信じて、取り組めるようになります(1)。

 この受容能力強化に役立つトレーニング方法が、ブッダの教えであるヴィパッサナー(Vi passanâ)実践方法です。パーリ語でvi ヴィとは「ありのままに・明瞭に・客観的に」つまり「先入観や固定概念にとらわれず客観的に」という意味です。passanâ パッサナーとは「観察する・観る・心の目で見る」という意味です。ヴィパッサナーは、「今この瞬間の体験をありのままに受け入れ、固定概念にとらわれず客観的によく観る」という意味です。ブッダは苦しみの解決法として、「今という体験を何の判断や評価をせず、否定も肯定もせず、ありのまますべてを受容し、観察すれば、体験している苦の原因がわかり、解決に導くことができるようになる」という実践方法を自からの体験の中から約2500年前に編み出しました(2)。

 ヴィパッサナーの実践方法は簡単で、何ら宗教性はありません。誰でも実践することができます。背筋を伸ばし、他の筋肉をゆるめて座り、姿勢をきちんと整えるところから始めます。そして目は閉じても半分開けてもよく、自然な呼吸をしていきます。呼吸を深くしたり、コントロールすることなく、あるがままの呼吸をただ見守っていくところから始めます。息が入っているときはただそれに気づき、出ていくときはそれにただ気づく。大切なことは気づきを忘れずに油断せず、一息一息丁寧に息の流れを見続けます。途中考え事やさまざまなイメージが生じてきたら、それに気づいて、何の判断や評価をせず、否定も肯定もせず、ありのまますべてを受容し、また息の方に意識を戻していきます。これを繰り返し訓練することにより受容能力が鍛えられるのです。

 今日、広く受け入れられているマインドフルネスのルーツはヴィパッサナーです。その訓練のやり方は、呼吸瞑想、歩く瞑想、食べる瞑想、手動瞑想などいろいろありますが、どの方法も下記のような状態になることを目指して継続的に訓練を続けます。
・今ここに、瞬間瞬間に起こっている体験に集中して注意を向ける
・過去や未来のことが心に現れたら、過去に囚われたり、未来の夢をみたりしないで受け入れる
・自分の身体の感覚を感じとる、たとえそれが快・不快なものであっても、それに執着したり、消え去るよう望んだりしないで受け入れる
・自分の感情に注意を向け、その瞬間に感じていることを、たとえ心地よいものでなくても、受け入れる
・自分の思考を、それが唯一の真実であると考えず、多様性を認める、客観的に観る
・人々や自分を取り囲む状況に対して、もっと繊細に、思いやりを持って接する

参考資料
(1)スティーヴィン・マーフィ重松、スタンフォード大学マインドフルネス教室、講談社、2016
(2)アルボムッレ・スマナサーラ、自分を変える気づきの瞑想法-第3版、サンガ、2015

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