アマゾンのアジャイルビジネス                      竹腰重徳

  アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは、大学卒業後に勤めていた大手ヘッジ・ファンドを退職して、1994年に米国のシアトルにある自宅のガレージで、インターネット書店から事業を始めました。現在のアマゾンの事業は、あらゆるカテゴリーに展開する小売業、マーケットプレース、クラウドコンピューティング、映画とテレビ番組制作、書籍出版、ロジスティクス、スマートスピーカー、エコー、キンドル、ヘルスケアなどあらゆる分野に広がり拡大し続けています。どうして、アマゾンが短期間の間に新しい事業の拡大でき、世界で最も価値のある企業の一つになれたのでしょうか(1),(2)。ここでは主要因として考えられる3つを取り上げます。ひとつ目が、「顧客に執着した考え方(カスタマーオブセッション:Customer Obsession)」、ふたつ目が、アマゾンビジネスを支える「2枚のピザチーム(Two-Pizza Teams:小さなチーム)」、三つ目が、アマゾンのビジネスを支える「アマゾンアジャイルビジネス12原則」です。

 「顧客に執着した考え方(カスタマーオブセッション)」
 アマゾンでは、常に顧客の声に耳を傾け、顧客体験における課題や機会を考え続けるという顧客のことがいつも頭から離れない状態を、カスタマーオブセッションといっていますが、それを全社員が日常活動の原点として最も大切なこととして取り組んでいます。アマゾンでのカスタマーオブセッションは、顧客満足を超えています。これは、顧客体験を継続的に改善するための原動力になります。顧客体験をながく執拗に追及することにより、新しい製品や事業や新しい顧客セグメントが創造されます。例えば、アマゾンウエブサービス(AWS)は、クラウド技術企業になろうという意思からではなく、満足のいくオンライン顧客体験を実現するための、拡張可能なインフラを提供する必要性から生まれたようです。

 「2枚のピザチーム」
 アマゾンの中核事業やサービスのデジタル化は、2枚のピザチーム(チームサイズは2つのピザを食べる人数(10人以下))と呼ばれる小さな自己組織的チームに責任を持たせます。このチームが、内部と外部の顧客に評価される製品やサービスの考察、製作、操作を行います。小さなチームをつくることで、イノベーション、質の高い仕事、俊敏性が実現できます。チームの中心にあるのは、プロジェクトではなく性能やサービスです。作業は最短でも2年間続くと予想され、反復を通じて質を高め、価値を顧客に提供しています。

 「アマゾンアジャイルビジネス12原則」
 アマゾンは、2001年に宣言されたアジャイルマニフェストの12原則をベースにしたアジャイルビジネス原則に基づいて、魅力的品質を持った顧客価値を迅速に提供しています。アマゾンのアジャイルビジネス原則は以下の通りです(3)。
1.焦点は、顧客体験の絶え間ない改善を通じて提供される顧客ニーズに向けられます
2.戦略と戦術は高い適応性と速い応答性をもち、変化を歓迎します
3.反復的なスプリント方法により、継続的に顧客価値を提供します
4.明確な意図を持ち有効的な機能横断型コラボレーションをします
5.やる気のある個人、権限委譲されたチーム、柔軟性、信頼の職場環境、失敗を許す環境を提供します
6.官僚主義と政治は最小限に抑えられ、コロケーションと対面のコミュニケーションを可能な限り行います
7.仕事の成果が、進捗と成功の最適な尺度です
8.持続可能なイノベーションと進捗を継続的にサポートします
9.技術的な卓越性と優れた設計は、ペースと敏捷性を維持するための中心となるものです
10.無駄な労力、重複、リソースを最小限に抑えます
11.最高の結果は、高度に自律した小さなチームから生まれます
12.継続的な改善は、振り返り時間と行動、学習を支援する文化を通じて得られます

 


参考資料
(1)ジョン・ロスマン、アマゾンのように考える、渡会圭子訳、SBクリエイティブ、2019
(2)ジェスパー・チャン、デイ・ワン毎日がはじまりの日、PHP、2021
(3)Ellen Leather, Amazonian Agility, 2017
  https://medium.com/frontira/amazonian-agility-e3720ff004f7
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