マインドフル・リーダーシップ                     竹腰重徳 

  スタンフォード大学で「マインドフル(気づき)・リーダーシップ」を教えているスティ―ヴィン・マーフィ重松博士は、「EI (Emotional Intelligence:感情の知性)の高いリーダーは、自己の気づきや自己調整に加えて、人々の中に望ましい反応を引き起こして、最高のパフォーマンスを引き出すような能力を持っている」と述べています(1)。著名な心理学者のダニエル・ゴールマンは、「優れた成果を上げるリーダーは、EI に優れ、その基盤である気づきの能力が高い」と述べ、またコーネル大学やヘイグループなどの研究調査によると高い気づきを持ったリーダーは、優れた指導力を発揮し、高いビジネス成果を上げているという調査結果も示しています(2)。このように、気づきはリーダーシップにとってベースになるもので、不可欠かつ大変重要な能力といえます。
 気づきとは、どのような環境にあっても、今現在の自分の感情を冷静に認識し、それがパフォーマンスにどのような影響するかを理解する能力です。今、自分がどのような感情なのか、なぜそのような感情なのか、これからしようとしている行動に対してその感情が役に立つのか、障害になるのかを知り、他者が自分をどのように見ているかを感じとり、自分の強み弱みを正確に評価したうえで、確信を持って行動することができる能力といえます。気づきの優れたリーダーは、マインドフル・リーダーといわれ、どのような厳しい環境下にあっても、ストレスを軽減し、今の現実に集中して、明晰さと創造性を発揮し、冷静に対応しながら、組織やチームを成功裡に導き、高いビジネス成果を上げます。なおマインドフルとは「気づき」、「注意深い」という意味です。
 マインドフル・リーダーは
  ・感情という貴重な情報を利用してより良い意思決定を行うことができる
  ・自らの感情をなぜ起こったかを理解しているので冷静に対応できる
  ・ネガティブな感情からポジティブなアイデアや考えに導くことができる
  ・他者と良い人間関係づくりができる
  ・自分の強み弱みを理解しているので確信をもって意思決定できる
  ・現状に疑問を投げかけ新しいことに挑戦できる
  ・仕事に対していつも前向きでいられる
  ・絶えず振り返り継続的に学習する
 では、気づきの能力を上げるにはどうすればいいのでしょうか。ダニエル・ゴールマンは、自らも実践しているヴィパッサナー瞑想(気づきの瞑想)をベースにしたマインドフルネスの訓練をすすめています(3)。実際、グーグル、インテル、フォードをはじめとする著名な欧米企業が、気づきの能力を向上させるためにマインドフルネスによる訓練プログラムを導入し、仕事のパフォーマンス向上や職場の人間関係改善などに効果をあげています。
 大量の情報・価値観の多様化し、変化の速い現在社会の中で、厳しいストレス環境下でも、リーダーは、思い込みや感情に惑わされることなく、今の現実をあるがままに観察し、冷静かつ的確な判断ができる気づき、創造性、思いやりのあるマインドフル・リーダーシップが求められています。マインドフルネスの訓練は、今の瞬間への気づき、冷静さ、平静さ、明晰さ、集中力、ポジティブ思考、思いやり、信頼などマインドフル・リーダーシップ能力を向上させるのに威力を発揮します(4)。マインドフルネスはいつでもどこでも実践できますので、自分のペースでマインドフル・リーダーシップ能力を自己鍛錬できます。

参考資料
(1)スティーヴン・マーフィ重松、スタンフォード大学マインドフルネス教室、坂井純子訳、講談社、2016
(2)Daniel Goleman、How Emotionally Self-Aware Are you?、Mindful、2017
(3)Daniel Goleman et al、The Emotionally Intelligent workplace、Jossey-Bass、2001
(4)Maria Gonzalez、Mindful Leadership、Jossey-Bass、2012


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