PMBOK®V5ソフトウェア拡張版とアジャイル

  激変するグローバル競争環境下における企業経営には、イノベーションによる顧客価値創造が求められています。それを実現する方法としてソフトウェア開発プロジェクトにおけるアジャイルの重要性が益々増大しています。
PMBOK®は、最初の版から特定の開発法を押しつけていませんが、プロジェクトマネジャー(PM)の中には、ウォーターフォールによる開発が主流であったこと、PMBOK®第4版までは、アジャイルという用語が明示的に記述されていないため、PMBOK®はウォーターフォールのみをサポートするものであるという誤解とアジャイルに不安を持つPMが存在し、そのことがアジャイルを採用していく上で、障害の1つと考えられてきました。
  2012年に発表されたPMBOK®第5版ガイドでは、第1章の「PMBOK®ガイドの目的」の中で、「開発者はプロジェクト・マネジメント・フレームワークを実施するのに違う方法やツール(例:アジャイル、ウォーターフォール、PRINCE2)を使うことができる」と明示的にアジャイルを記述しています。さらに、第2章の「プロジェクト・ライフサイクル」では、「プロジェクト・ライフサイクル」は、下記のように「予測(Predictive)ライフサイクル」、「反復漸進(Iterative and Incremental)ライフサイクル」、「アダプティブ(Adaptive)ライフサイクル」の3種類あり、「アダプティブ・ライフサイクル」の説明の中でアジャイル開発法を明示しています。
 ・「予測ライフサイクル」は、計画駆動、ウォーターフォールで、プロジェクト・ライフサイクルの早い段階に、スコープ、コスト、スケジュールの計画を作りそれに基づいて開発する。
 ・「反復漸進ライフサイクル」は、一般的にプロジェクト・ライフサイクルの早い段階にプロジェクト・スコープを決定し、スコープ変更に対応するため反復ごとに製品の増分を見ながら製品を漸進的に開発する。
 ・「アダプティブ・ライフサイクル」は、変更駆動、アジャイル開発法で、高いレベルの変更とステークホルダーの継続的参加で製品を反復漸進的な開発する。これも反復漸進的な開発であるが、反復サイクルが短い(通常は2-4週間)ことと、時間とコストを固定してスコープを開発する点が「反復漸進ライフサイクル」と違う。
しかし、PMBOK®第5版ガイドに記述されているアジャイルの内容はこの程度の簡単な記述だけで、全般的にアジャイルに関する要素の詳細な説明はありません。それを補完するために、PMBOK®第5版ソフトウェア拡張版(以降ソフトウェア拡張版)が、PMI®とIEEEコンピュータ協会と共同で開発され、本年9月よりリリースされました。

  ソフトウェア拡張版は、第1章「はじめに」、第2章「プロジェクト・ライフサイクルと組織」、第3章「プロジェクト・マネジメント・プロセス」、第4章「プロジェクト統合マネジメント」から第13章「プロジェクト・ステークホルダー・マネジメント」までの10個の知識エリアというようにPMBOK®第5版に対応して構成されていますが、すべての章にわたってアジャイルに関連した要素が詳しく述べられています。
例えば、第2章の中の「プロジェクト・ライフサイクル」では、「アダプティブ・ライフサイクル」の特性を、下記のようにPMBOK®第5版に比べ、かなり詳しく説明しています。
 ・周期的に動くソフトウェアの増分が作られる
  ・アダプティブ期間のサイクルは日、週、月であるが、通常は1ヶ月を超えない
  ・アダプティブ期間のサイクルは同じ期間(タイムボックス)であり、例外的にいくつかのサイクルは長かったり短かったりする
  ・動くソフトウェアの増分は必ずしも個々の反復サイクルに対応して作られる必要はない
  ・反復サイクルでは、分析、設計、制作、結合、テストが要求機能別に行われる
  ・縦に切った機能を統合しながら開発する
  ・顧客の代表、顧客の代理、精通したユーザーが継続的に参加する
  ・開発チームは10人以下の少人数で自己組織的である。大きなプロジェクトは複数のチームで構成する
  ・開発チームは一度に一つのプロジェクトにアサインされる(専任)
  ・開発チームは仕事内容によりジェネラリスト、スペシャリストで構成される
 また、図1.に示すような一般的なアダプティブ・ソフトウェア開発法を図示し、スクラム、XP(eXtreme Programming)、Feature-Driven Development、Test-Driven Development、Dynamic System Development Methodのアジャイル開発法がこの図をベースに表現されると述べています。
   
 ソフトウェア拡張版では、アジャイルに関する要素が、全般にわたり充実し、位置づけも明確にされており、PMがアジャイル開発法の採用を検討するときの参考資料として、有効に利用できると思われます。
以上
参考資料
(1)PMI®、PMBOK®第5版ガイド、2012
(2)PMI® & IEEE、PMBOK®第5版ソフトウェア拡張版、2013
                         HOMEへ