レジリエンスとマインドフルネス                     竹腰重徳 

  レジリエンス(resilience)とは、日本語で「精神的回復力」「復元力」などと訳され、ストレスやトラウマなどの困難な状況に、しなやかに適応してそうした状況からうまく回復できる力のことを指します。「折れない心」「逆境力」ともいわれています。同じ厳しい困難な体験を持つ人々の中でも、必ずしも全員が心理的な不調を訴えるわけではありません。ある人は危機的状況において多大な影響を受けるのに対し、またある人は上手に対処し切り抜けることができるという違いは何かという点に注目して出てきたのが、レジリエンスの概念です。NHKクローズアップ現代「折れない心の育て方」(1)によると、レジリエンスという概念が注目され始めたのは1970年代、きっかけの1つとなったのが、第2次世界大戦でホロコーストを研究した孤児たちの研究でした。孤児たちのその後を調査すると、過去のトラウマや不安にさいなまれ生きる気力を持てない人たちがいる一方で、トラウマを乗り越え仕事に前向きに取り組み、幸せな家庭を築く人たちもいたのです。同じ経験をしながら、その後の人生が違うのはなぜか?研究から、逆境を乗り越えた人たちには共通の傾向があることが分かってきました。それは、厳しい状況でもネガティブな面だけでなくポジティブな面を見出すことができる人が、逆境を乗り切るのです。レジリエンスを効果的に発揮できる人は、悲しみや苦痛を感じない、傷つかないというわけではありません。そうした困難な状況に直面しても、柔軟に回復し立ち直る方向に自身を導くことができるということで、その能力がレジリエンスを有するということなのです。レジリエンスを構成する要素は様々であり、遺伝的・生物学的な要因や心理学的・社会的要因など多くの因子が関係しているといわれています。なかでも心理的要因としては、出来事の解釈や評価、感情や衝動をコントロールする力、問題を解決する力などが含まれており、これらの力は個人が自分自身で獲得し、育てていくことができる能力といわれています(2)。そのひとつがマインドフルネスの訓練によるレジリエンスの強化です。

 マインドフルネスストレス低減法を開発したマサチューセッツ大学医学大学院のジョン・カバット・ジン博士は、マインドフルネスを「瞬間瞬間の体験に対して、価値判断をしないで、意図的に注意を払うことによって実現される気づき」と定義していますが、日々のマインドフルネスの訓練によって気づきの能力は向上していきます。この効果の一つが、今この瞬間をあるがままに気づくことによって養われる何事にも柔軟に受容できる能力です。頑固で融通が利かない人、固定概念に縛られて変化に適応できない人は、ストレスに見舞われやすいし、既成概念にとらわれてしまって新規なアイデアも湧きにくいのです。一方、瞬間瞬間の出来事や体験に対して、明晰に気づくようになると、今ここに起こっているどのような体験も受け入れられるようになり、自分の置かれた状況を認識し、置かれた状況の限度内において新たな可能性と解決策を見つけることができるようになります。どんな出来事に直面しても、自分の色眼鏡や既成概念にとらわれない柔軟な発想で、事態を肯定的にとらえるようになり、レジリエンスが発揮できるようになります。
 
 これからの時代は、今まで以上に社会の構造が激変します。変化やうねりや大きな混沌の時代であり、それは当然ストレス過多の時代ともいえます。このことからも、ストレスを跳ね返し、変化に対応しながらたくましく生きていくために、レジリエンスを強化していくことがますます求められます。

参考資料
(1)NHK、クローズアップ現代「折れない心の育て方」、NHK、2014.4.17
(2) American Psychological Association、‘The road to resilience’2014
http://www.apa.org/helpcenter/road-resilience.aspx

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