マインドフルネス瞑想のルーツ                     竹腰重徳 

 マインドフルネス瞑想は、今この瞬間の現象に常に気づきを向け、その現象をあるがままに知覚し、それに対する思考や感情に囚われないようになることを目指す心のトレーニングですが、そのルーツは、ヴィパッサナー(VIPASSANÂ)瞑想です(1)。ヴィパッサナー瞑想は、約2500年前、ブッダが開発した宗教性のない誰でも実践できる瞑想法で、人間の苦や悩みからの解放を目指した瞑想法です。初期仏教パーリ語でvi ヴィとは「ありのままに・明瞭に・客観的に」、passanâ パッサナーとは「観察する・観る・心の目で見る」という意味です。ヴィパッサナーは「今という瞬間に完全に注意を集中し、今この瞬間の自分をありのままに観察する」ことです。今ここ一つ一つの瞬間に意識を向けて気づく。心地よいことでも不快なことでも、ありのままの体験を価値判断しないで受け入れ、そのまま観るのです。それにより苦悩を乗り越え、心の安らぎが訪れ、心と身体を癒すことになるのです(2)。

 ヴィパッサナー瞑想は、集中力を高める効果もありますが、基本は、マインドフルネス「気づき」を培う瞑想法です。対象を呼吸から始めて、身体、感受(感覚)、心、法則の順にステップを踏んで、より詳細に精妙に観察していきます。簡単にステップを説明します(3)。

 まず、背筋を伸ばし、他の筋肉をゆるめて座り、姿勢をきちんと整えるところから始めます。そして目を瞑り、自然な呼吸をしていきます。呼吸を深くしたり、コントロールすることなく、普通の呼吸をただ見守っていくところから始めます。息が入っているときはただそれに気づき、出ていくときはそれにただ気づく。大切なことは気づきを忘れずに油断せず、一息一息丁寧に息の流れを見続けます。途中考え事やさまざまな雑念が生じてきたら、それに気づいて何もせず、そのまま優しく手放し、息の方に意識を戻していきます。そして呼吸に伴う身体の様々な動きを見ていきます。身体の動きは、息と連動しています。横隔膜が呼吸とともに動きます。呼吸とともにお腹が膨らんだり縮んだりします。呼吸が出ていく様子、入っていく様子を観察し続けます。次に身体全体をスキャンしながら身体の感覚を感じてみます。頭のてっぺんからつま先まで、快の感覚、あるいは不快の感覚が感じられたらあるがままに見守っていきます。身体の痛みや痒み、不快感、それは身体のシグナルです。その際、痛みや痒みが徐々に消えていく様についても、あるがままに観察していきます。次に心の形成プロセスにも意識を向けていきます。怒りが生じているなら、生じていることに気づき、生じていないなら生じていないことに気づきます。怒りが生じているとき、身体がどんな感覚になっているか、どんなイメージが生まれているか、その時に何か記憶が思い出されているか、そんな視点で観察してみます。それからどんなときに怒りが起こってきたか、何かを見てだったのか、何かの記憶に触れてだったのか、怒りが起こってきた時の原因に気づきます。こうして気づいていくうちに、怒りがだんだんと消えていきます。その消えていくさまについても、しっかりと見届けていきます。また、怒りが生じてきた時に、どのように対処すれば再び生じてこなくなるか、洞察を深めていきます。以上のような視点で、貪りや迷いの心についても、観察や洞察を続けていきます。心がどんな現象であっても、生まれては消えていく。そういった「無常」のプロセスをあるがままに気づき、観察や洞察を続けていくのです。この実践を続けていくことにより、最終的に無常、苦、無我であるといった真理の法則の認識にいたるまで洞察を深めて苦や悩みからの解放に到達する心のトレーニングなのです。

参考資料
(1) 熊野宏昭、実践!マインドフルネス、サンガ、2016
(2) ラリー・ローゼンバーグ、呼吸による癒し-実践ヴィパサナー瞑想、井上ウィマラ訳、春秋社、2016
(3)プラユキ・ナラテボー、篠浦伸禎、脳と瞑想、サンガ、2016
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