米国政府のアジャイル変革ベストプラクティス                  竹腰重徳

 米国政府の開発プロジェクトには、複雑な大型プロジェクト、コンプライアンスが必要、開発期間が長期にわたる、その間に状況が動的に変化する、などの特徴を持ったプロジェクト案件が多くある。これらの案件は、ウォーターフォールが適しており、アジャイルの適用は難しいと考えられていた。しかし、米国政府は、かなりの時間を使ってアジャイル導入の検討を続け、2010年にウォーターフォールとの共存を前提にアジャイル導入を決定した(1)。

 米国政府は、経験したアジャイルのベストプラクティスを広めるために、戦略計画、組織のコミットメントと協業、準備、実行、評価というソフトウェア開発で広く受けいれられているプロジェクトマネジメント活動に沿って、以下のようなアジャイル変革のベストプラクティスを報告している(2)。これらのベストプラクティスは、企業においてアジャイル変革を実施する場合の参考になると考えられる。

 戦略計画
  ・アジャイルの方法よりアジャイルマインドセット(価値観や原則)の理解を優先する
  ・組織の準備状況に応じた漸進的アプローチをする
  ・アジャイル変革の事例を調査し参考にする
  ・危機感、変革ビジョンを作成しコミュニケーションする
  ・困難、障害、反対に備える
  ・アジャイルガイドとアジャイル導入戦略からはじめる

 組織のコミットメントと協業
  ・アジャイル変革を組織としてコミットする
  ・経営レベルでアジャイル推進者を特定する
  ・アジャイルの経験のあるコーチやスタッフを投入する
  ・組織横断的推進チームに権限委譲する

 準備
  ・組織には、アジャイルマインドセットとアジャイル変革アプローチを教育し、アジャイル実践者には、アジャイル方法論を教育する
  ・専門家(SME)やビジネスの人たちが要求される知識を持つ
  ・アジャイルの用語と例を使ってアジャイル概念を理解させる
  ・コラボレーションを推進する環境(物理的環境、ツール)を整える
  ・成果物(開発コード数)ではなく測定可能な成果(処理時間の短縮)を特定する
  ・完了の定義をわかりやすく、測定可能なものにする
  ・アジャイルに合った契約にする

 実行
  ・反復は同じ期間にする
  ・必要ならスクラムとXPのようなミックスしたフレームワークで実行する
  ・早期の顧客参加とTDDのような設計を使うことを奨励する
  ・セキュリティと進捗監視に関連した要求をバックログにいれる
  ・要求を満たさない製品はこれからの反復で修正するためにバックログに入れる
  ・自動化ツールを使って出荷のスピードを高めるよう促進する
  ・開発サイクルにわたってテストは早期に度々行う

 評価
  ・ステークホルダーや顧客のフィードバックを度々かつ緊密に得る
  ・プロジェクトレベル、組織レベルで障害を特定する
  ・プロジェクトレベル、組織レベルで継続的改善を行う
  ・各反復レビューに価値をデモすることにより信頼を得る
  ・ツールや評価指標を使って進捗を追う
  ・毎日「見える化」して進捗を追う
  ・顧客の視点でのプロジェクト価値やROIで評価する
                                                                   以上
参考資料
(1) Peter S. Zaleski, Christopher B. Bostian, Christtfer J. McDyer: Balancing Agility with Conformance on Complex Government Programs, PMI NA Congress,2011
(2) GAO,Software Development Effective Practices and Federal challenges in Applying Agile Methods,2012
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