アジャイル・マインドセット                         竹腰重徳

  現在は、「VUCA」と呼ばれる環境にあるといわれています。VUCAは「Volatility」(変動性)「Uncertainty」(不確実性)「Complexity」(複雑性)「Ambiguity」(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、変化が激しく、物事の予測がしにくい複雑・不確実な状況の中に置かれています。このような複雑で激しい環境変化の中で、企業は熾烈な競争に勝ち残るために、イノベーションが求められています。イノベーションとは、新しい顧客価値を生み出すための革新的な事業活動で、スピードと変化に適応することが求められています。イノベーションを実現するために、顧客価値創造、協調、反復漸進開発を特徴とするアジャイルの導入が拡がっています。

 しかし、アジャイルの企業への導入は非常に難しいのです。米国Digital.I社が毎年行っている調査によれば、その原因はまさに組織文化や人々の考え方の問題で、変化に対する一般的な組織の抵抗、リーダーシップの不十分な参加、マネジメントの不十分なサポート、アジャイルの価値観と逆の組織文化、が主要な課題として挙げられています(1)。

 これらの企業文化や人々の考え方を変える課題に打ち勝つためには、どうすればよいでしょうか?セールスフォース社、マイクロソフト社、グーグル社などのアジャイル導入に成功している企業では、アジャイルに関係するすべての人々がアジャイルを実践するとき、アジャイル・マインドセットを持ち、アジャイル価値観を十分理解してアジャイルを実践しています。すべての人々がアジャイル・マインドセットを持つアジャイル文化企業に変身しています。

 アジャイル・マインドセットとは何でしょうか?
 マインドセットとは、経験や教育、その時代の空気、生まれ持った性質などから形成さえされるものの見方や考え方をさす言葉です。信念や心構え、価値観、判断基準、あるいは暗黙の了解や無意識の思い込み、陥りやすい思考回路といったものも含まれます(人事労務用語辞典)。アジャイル・マインドセットとは、アジャイル手法を使うときの心構え、価値観、判断基準で行動指針となるものです。具体的には、2001年17名のアジャイル・イノベーターが発表したアジャイル・マニフェストの4つの価値観に表されています(2)。この価値観は、ソフトウェア開発分野に焦点を当てて発表されましたが、イノベーションが要求されるビジネスの多くの分野にも提供されています。

  ・個人とその相互作用(Individuals and Interactions)
   アジャイル目標を達成するために、人間の能力とその相互作用が最も重要であると考えます。いろいろなスキルを持ったメンバーが一体となって協力して自己組織的に行動します。そのためにメンバーは、EQ(感情の知性)とサーバント・リーダーシップが要求されます。
  ・動くソフトウェア(Working Software)
   提供する製品・サービスは価値を重視し価値の高い機能から漸進的に速く提供し、顧客を満足させます。気づき、明晰、創造の能力が要求されます。
  ・顧客とのコラボレーション(Customer Collaboration)
   価値のある製品・サービスの要求を正しく理解するために、顧客に深く共感し、一緒に協力して開発します。顧客の要求する製品・サービスを顧客からフィードバックを得ながら、失敗から学ぶ方法で提供し顧客満足を得ます。
 ・変化への対応(Responding to Change)
   価値を高める変化を受け入れ、学習しながら柔軟に対応します。計画・プロセス・プラクティスを通して、有効性と信頼性を高めるために変化を受け入れ継続的に改善します。
   
参考文献
(1)https://explore.digital.ai/state-of-agile/14th-annual-state-of-agile-report
(2)アジャイル・マニュフェストhttps://agilemanifesto.org/iso/en/manifesto.html

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