プロジェクトマネジメントでコンパッションを実践                竹腰重徳

  プロジェクトマネジメントは、目標達成に向けて計画を策定し、チームを牽引し、リスクを適切に管理する重要な役割を担います。しかし、スケジュール、コスト、品質の管理だけではプロジェクトの成功は保証されません。成果のカギを握るのは「人」です。プロジェクトを成功へ導くためには、チーム内の信頼関係を築き、メンバーのモチベーションを維持・向上させることが欠かせません。そのための重要な要素が「コンパッション(思いやり)」です。本稿では、プロジェクトマネジメントにおけるコンパッションの考え方と実践法をご紹介します。

1.コンパッションとは
 コンパッションとは、他者の困難や苦しみを理解し、その軽減に向けて具体的に行動する姿勢を指します。リーダーシップにおけるコンパッションは、単なる共感にとどまらず、積極的な支援とサポートを意味します。コンパッションは「認識(Awareness)」「共感(Empathy)」「行動(Action)」の3つの要素で構成されます。
 ・認識(Awareness)
 メンバーの置かれた状況や感情に注意を払い、ストレスや不安の兆候を早期に察知します。進捗管理だけでなく、心理的な側面にも目を向けることで、問題を未然に防ぎ、チームの健全性を維持します。
 ・共感(Empathy)
 メンバーの立場に寄り添い、感情を理解し受け止めることで、信頼関係を構築します。共感を示すことでチームの心理的安全性が高まり、メンバーが意見を率直に伝えやすい環境が生まれます。
 ・行動(Action)
 把握した課題に対して、適切な支援や対応を実行します。たとえば、タスク負荷の調整やメンタルヘルスの支援を通じて、チームのパフォーマンス向上を後押しします。

2.コンパッションがもたらす効果
 プロジェクトの現場は、納期のプレッシャーやタスクの重圧によって、ストレスが蓄積しやすい環境です。プロジェクトマネージャーがコンパッションを実践することで、以下のような効果が期待できます。
 ・チームの信頼関係の強化
 リーダーの思いやりは、メンバーに安心感をもたらし、相互の信頼を深めます。
 ・生産性と創造性の向上
 心理的安全性が高まることで、自由闊達な意見交換が促進され、活気あるチーム文化が育まれます。
 ・プロジェクト成功率の向上
 メンバーの協力と士気が高まり、計画通りの進行が実現しやすくなります。
 ・離職率の低下
 思いやりのある職場環境は、働きやすさを高め、メンバーの定着率向上に貢献します。

3.プロジェクトマネージャーが実践すべきコンパッションの具体策
 ・メンバーの声に耳を傾ける
 週1回の1on1ミーティングを設定し、業務だけでなく個人的な悩みにも丁寧に耳を傾ける。ただ話を聞くだけではなく、「どのように支援できるか」を常に意識します。
 ・称賛と感謝の文化を育てる
 小さな成果も見逃さず、積極的に認め、感謝の言葉をかけます。チームの努力を定期的に振り返り、成果を共有する場を設けます。
 ・柔軟な働き方の促進
 在宅勤務やフレックスタイムなど、多様な働き方を尊重し、個々の事情に配慮したタスク調整を心がけます。
 ・自分自身にもコンパッションを持つ
 リーダー自身が過度な自己要求を避け、適切に休息を取り入れることも重要です。健全な精神状態を保つことで、冷静かつ的確な判断が可能になります。

3.コンパッションを高めるための自己研鑽
 ・自己認識を磨く
 自分自身の感情や行動パターンを理解し、状況に応じた適切な対応力を養います。
 ・フィードバックを積極的に受け入れる
 チームメンバーや同僚からの意見を柔軟に受け止め、改善点を明確にします。定期的に振り返りも欠かせません。
 ・ストレスマネジメントの習慣化
 マインドフルネスや適度な運動を取り入れ、心身のバランスを整えることが、健全な判断力と持続的なパフォーマンスにつながります。

 コンパッションをプロジェクトマネジメントに取り入れることで、チームの信頼関係は深まり、成果の質も確実に向上します。プロジェクトマネージャーは単なる進行管理者ではなく、チームの成長と持続可能性を支える「人間関係のマネージャー」としての役割を担っています。人を大切にする姿勢が、プロジェクトを成功に導く最大の原動力となるのです。

参考資料
(1) トゥプテン・ジンバ、コンパッション、東川恭子訳、めまくまーる、2022


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