マインドフルネス瞑想で到達する全体性意識               竹腰重徳

  地球上のあらゆる生命体は細胞から構成されて、それ自体が1つの全体であるとともに、さらに大きな全体性の中に組み込まれています。私たちの体も、それ自体が1つの全体として統合されて機能しています。さらに、より大きな全体性、地球、太陽、宇宙の中に組み込まれています。つまり、私たちは、それ自体で一つの全体として完成されたものであるとともに、より大きな全体性と結びついて生きています。
 
  私たちの体は、それ自体が一つの全体としてうまく機能していますが、それは感覚器官、筋肉、神経、細胞、内臓システムなどの器官の働きが統合されることによって保たれています。各器官は、細胞で構成されています。それぞれの細胞は結びつきあい、体全体の体内バランスと秩序を維持するための統制機能が組み込まれています。体内のバランスは、状況に合わせて体のあらゆる部分を調整するフィードバックループと呼ばれる機能によって維持されています。たとえば、走ったりして体を使うと、心臓は、自動的に血液を通常より速く押し出し、筋肉が運動できるように大量の酸素を供給します。呼吸も大量の酸素が必要なので速くなります。運動が終了すると、心臓と呼吸は通常の状態に戻り、筋肉も回復します。また、運動することにより、大量の熱が発生し、汗をかいて通常の温度に冷まそうとします。大量の汗が出ると喉が渇き、水を飲みたくなります。これは体内で失った水分を補給しようとするからです。これらのプロセスはすべてフィードバックループを通じて内部で結びつき、統制され全体として機能しています。

  私たちの体は、それ自体が一つの全体として機能していますが、より大きな全体性とも結びついて生きています。私たちは呼吸するために、地球の空気から酸素を体内に取り込み、二酸化酸素を吐き出します。また、自然界の植物や動物を食事として取り込み、エネルギーや細胞の再生に原料として使われていきます。このプロセスで生じた老廃物は効率よく対外に排泄されます。そのため、体に毒素がたまることなく、適切な新陳代謝が行われ、体のバランスが保たれます。また、私たちは、家族や友人や知人と結びついており、社会や人類全体と結びついて、支え合い助け合って生きています。私たちは意識や感情をとおして、自分と世界の結びつきを感じることができます。そして、科学や推論などの方法を通じることによって、より大きな自然のパターンやサイクルと自分の密接な結びつけを理解することもできます。例えば、呼吸に必要な酸素のほとんどは、光合成によって作られます。植物は、葉緑体を使って二酸化炭素を取り込んで酸素を作ります。光合成ができる植物は、陸上の木や草だけではなく、海や湖の中の海藻、植物性プランクトンも酸素を作ります。

  それぞれが別個のものでありながら、内的な結びつきや全体性をもっているということを知覚する能力は、マインドフルネス瞑想することによって養うことができるとカバットジンはいっています。マインドフルネス瞑想のトレーニングでは、呼吸に注意を集中し、体のさまざまな部分に注意を集中し、食べる、歩く、動く、伸ばすという基本的な動作に注意を集中することによって、体が一つの全体であるという意識が高まります。体が体験するいろいろなことは、すべて自分の全体性をみる窓口になります。さらに、自分の全体性だけでなく、植物、動物、地球、太陽など外界との全体性の構成の一部であることをも感じるようになります。

  マインドフルネス瞑想を行って、自分が一つの全体であり、かつ、より大きな全体の中の一部であるということを体験すると、視野が拡がり、物事をありのままに、より幅広く明確に見ることができるようになります。物事をありのままに明確にみることにより、世の中のものごとや自分に対する見方も、小さいころから身につけた自分自身の勝手な思い込みや先入観に邪魔されることなく、問題の本質を捉え、客観的な判断ができるようになります。全体性という新しい意識に支えられ、受容力が広がり、コントロールできないとか望みがないという悲観的な捉え方が、自信や可能性に満ち、内的に安定しているという感覚に代わっていきます。


参考資料
(1)ジョン・カバットジン、マインドフルネスストレス低減法、春木豊訳、北大路書房、2016
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