コンパッションを高める「私と同じ」の実践                竹腰重徳

  私たちは他人との関係において、育った環境、人種、宗教、性別、教育、所属、政治、地域などの違いにより、他人と自分とは違うとか分離しているとかと感じ、他人との違いに焦点を当てがちです。私たちは、社会生活の中で他人の行動によって影響を受けますが、他人との違いに焦点を当てることにより、非難、孤立、怒り、嫉妬、さらに憎しみを生じたりします。しかし、他人との違いに注目するのでなく、自分との類似性、共通の人間性、つながりを感じて、人間として共通していると認識すると、共感とコンパッション(思いやり)への扉が開きます。誰かを自分に似ていると認識すればするほど、その人に対する共感が大きくなります。共感力が高まると、その人に対する優しさや思いやりのある行動が生まれます。この科学的根拠が示されています(1)。

  他人を「私と同じ(Just like me)」として歓迎し、そして他人の幸せを願うと、共感、コンパッション、優しさの輪が強化されます。「私と同じ」という実践は、他の人々がどれほど自分に似ているかを思い起こして、それによって他人とは同じ人間であるという心の習慣を生み出します。さらに「他人の幸せを願う」ことにより、優しさという心の習慣を生み出します。二つの心の習慣を同時に育むためにひとつにまとめて実践します。この実践は、何であれ、たびたび考え、思いを巡らせるものが、その人の心の傾向となり、心の習慣を生み出していくというブッダの教えがベースになっています。この実践のやり方自体は簡単です。ある考えが心に頻繁に浮かぶように促すと、それが心の習慣となります。例えば、人に会うたびに、その人の幸せを願っていれば、いずれそれがあなたの心の習慣となり、その人に会ったときにはいつも、そのひとが幸せになりますようにという考えが本能的に頭に浮かぶようになります。しばらくすると、優しさのための本能が育ち、あなたは優しい人になります。

  「私と同じ」の実践方法の例を下記に示します(2)。
実践の準備
 可能ならば、静かに座ります。あるいは混んだ電車に乗っているかもしれません。どこにいようとも自分の内側に注意を向けます。身体が足を通して大地とつながっていることを感じます。それから呼吸に注意を向けて自然な呼吸を数サイクル繰り返すと、心が落ち着いてきますので、実践可能となります。
実践時間
 2分から10分
実践
 誰か知っている人を思い浮かべます。あるいはあなたの目の前に座っている人かもしれません。台本のフレーズを、十分間を置きながら心で感じるように、ゆっくり心の中で唱えます。なお、台本は、自分に合うように変更が可能です。
「私と同じ」
  この人も私と同じように、この世に生まれてきました。
この人も私と同じように、体と心を持っています。
  この人も私と同じように、感情、思考を持っています。
  この人も私と同じように、苦しみを経験しています。
  この人も私と同じように、悲しんだり、怒ったり、傷ついたことがあります。
  この人も私と同じように、愛され理解されることを望んでいます。
  この人も私と同じように、安全で健康であることを望んでいます。
  この人も私と同じように、幸せになりたいと思っています。
「他人の幸せを願う」
  この人が痛みや苦しみから解放されますように
  この人が危険から解放されますように
  この人が安全でありますように
  この人が健康でありますように
  この人が穏やかな人生でありますように
  この人の心が安らかでありますように
  なぜなら、この人も私と同じ人間だから
終わり
 今実践した「私と同じ」「他人の幸せを願う」の余韻を感じながら、数回自然な呼吸して終わります。
 
  この「私と同じ」の実践は、グーグル社のマインドフルネス強化プログラム(Search Inside Yourself)にも取り入れられています(3)。


参考資料
(1)Andrea Serino,Guilia Giovagnoil,Elisabetta Ladavas、I feel what you feel if you are similar to me Plosone、2009
(2)Center for compassionate leadership、Compassionate leadership practice series: Just like me 2019
(3)チャディー・メン・タン、サーチ・インサイド・ユアセルフ、柴田裕之、英治出版2016

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