日常生活のマインドフルネス訓練                     竹腰重徳

  現代は、とくにスマホやインターネットやAIなどの影響から、情報があふれかえり刺激や変化の多い社会で、心は散漫になり易い環境にあります。マインドフルネスは、「現在していることに注意を向ける」というメンタルトレーニングとして、医療分野はもちろんのこと、ビジネス分野や教育分野やスポーツ分野でも広がっています。私たちの多くは、今この瞬間を生きているようでいて、実際は行動、思考、感情の多くは無意識な自動的な思考パターンに支配され、心ここにあらずの状態で過去や未来のことを考える時間が多く占めています。このような状態から抜け出し、心を今この瞬間に注意を向け、感情・思考・周囲で起こっていることに気づいている状態になる必要があります。それがマインドフルネスですが、こうすることで、ストレスが低減し、今体験していることに無意識に短絡的に反応せず、間(スペース)を取ることができ、冷静に英知や智慧が湧き出て、物事に賢い対応ができるようになります。

  私たちの多くは、無意識に思考したり、行動することが習慣的になっており、マインドフルネスに過ごすことが難しいのです。そのためマインドフルネスに過ごすようになるためには、日々の地道な訓練の繰り返しが必要となります。マインドフルネスの訓練は、座る瞑想やボディスキャンとかのように、予め時間をとって取り組む公式的な訓練だけではありません。日常生活の中の何気ない行動に対して少しだけ注意を払うことで、マインドフルネスを持続的に訓練することが可能となります。歩く、手を洗う、食べる、何かを待つ間、歯を磨く、風呂に入る、など色々な場面です。このような日常行動の時間をうまく使うことにより、マインドフルネスの訓練の時間と回数を増やすことにつながり、マインドフルネスの能力を向上させることができます(1)。

 歩く
 歩いている間、足の感覚(例えば足の裏)に注意を向け続けます。注意が逸れて、いろいろな考えや音などに気を取られたことに気づいたら、優しく何度でも足の感覚に注意を向けなおします。それを繰り返すうちに、頭に勝手に浮かんでくる考えや聞こえてくる音などから、「今ここに」戻る力を培うことができます。歩きながらの訓練は、仕事や買い物などで外出するついでに行えます。
 手を洗う
 感染症予防のためにもしっかり手洗いすることは欠かせなくなりましたが、注意深く丁寧に手を洗うことも訓練になります。過去からの習慣でサッサッと手早く洗う癖がついているなら、それを見直して、手に注意を集中させて、指一本一本、手のひら、手の甲をよく見て、心を込めて洗います。途中注意が逸れて考え事をしていることに気づいたら、やさしく手に注意を向けなおして手をしっかりと洗います。
 食べる
 テレビやスマホを見ながら自動操縦モードで無意識に食べるのでなく、何を食べているのか、その味はどんな感じかを五感を総動員して、食べ物をきちんと認識しながらゆっくりと食べます。見た目、におい、噛んでいる音、口の中の感触、その味、飲み込む感触などの感覚に意識を集中しながら食べます。食事中、他のことに気を取らたらそれに気づいて、食べることに注意を向けなおし食べることに専念します。
 何かを待つ間
 例えば赤信号は、上の空な状態から自分に立ち戻るチャンスともいえます。急ごうとしている気持に気づき、それを落ち着いて受け止め、呼吸や身体の感覚に意識を向けてみましょう。
 風呂に入る
 入浴の時は身体感覚を感じやすくなります。入浴中無意識のうちにあれこれ考えていることに気づいたら、やさしく身体感覚に注意を向け、全身で気持ち良い感覚を味わいます。
 歯を磨く
 いつものような自動操縦的な歯磨きにならないように、口の中や歯ブラシの感覚や手の動きに注意をむけて、ゆっくりと丁寧に歯磨きをしましょう。途中何か他のことを考え出したらそれに気づき、やさしく歯磨きに注意を戻し、しっかりと歯磨きをします。


参考資料
(1)ジャン・チョーズン・ベイズ、「今、ここ」に意識を集中する練習、高橋由紀子訳、日本実業出版社2019

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