マインドフル・リスニング                 竹腰重徳

   私たちは日頃、相手の話をよく聞いているようで、実はほとんどはうわの空ということが少なくありません。ハーバード大学の心理学者であるマット・キリングスワース博士が2010年発表した研究データによれば、46.9%の時間を「今やっていること」について注意を向けず、心はうわの空で過ごしているそうです(1)。これは人と会話をしているときにもあてはまります。普通人の話を聞いている時に、その話を聞きながらいろいろなことを考えています。たとえば、「この話は賛成できないな」「この話の結論はどうなるのだろうか」「この話が終わったら、何と答えようか」といった感じです。話とは全く別のことを考えていることもあります。「この後どんな予定だったかな」「昨日のプロジェクト会議では進展がなかったな」「明日の会議のテーマは何だったかな」と。

 マインドフル・リスニングでは、うわの空にならず、相手が話していることに、耳、目、心を使って注意を向け、自分の思考や感情に評価や判断を加えずに、あるがままに相手の言いたいことを受け取っていきます。自分の注意のすべてを、相手が話していることに向けることによって、話の内容だけでなく、相手の気持ちや意図、置かれた環境など、様々なことが伝わってきます。それにより深く相手のことを理解できるようになり、相手に対する共感が呼び起こされます。こちらが相手に注意を向けていることは、相手にすぐ伝わります。相手は、自分の話をありのままに聴いてくれたことで、心が落ち着き、とてもうれしい気持になります。このように、マインドフル・リスニングをするだけで、大抵の場合、相手は自分を信頼する気持ちになり、相手との関係も改善します。
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 マインドフル・リスニングのスキルは訓練により向上させることができます。マサチューセッツ医科大学のカバットジン名誉教授は、マインドフルネスを実践するときの重要な心構えとして、「集中」「受け入れる」「評価しない」「寛容さ」「忍耐」「初心者の心」などをすすめていますが、相手と会話するときに、その心構えで実践すると有効です(2)。

 ・集中する
   相手の話に注意を向けて聴き、会話の途中で心がうわの空になったら、それに気づき、話に
   注意を向けなおす
 ・受け入れる
   その瞬間話の内容が何であれ受け入れる。相手が自分の話を聴いてもらえているという感
   覚を与える
 ・評価しない
   相手の話の内容をよいとか悪いとか先入観で評価せずありのままに受け入れる
 ・寛容さ
   どのような内容であれ、寛大に受け入れる
 ・忍耐
    忍耐強く相手の話を受け入れる<br>
 ・初心者の心<br>
    先入観にとらわれることなく初めて見たときのように興味を持って学ぶ心で聴く

 マインドフル・リスニングを日常生活の中で心構えを意識して実践することにより、相手の言いたいことがよく理解できるだけでなく、マインドフルネス実践訓練にもなります。集中、気づき、受容、忍耐などの能力が向上してきます。

参考資料
(1)Matt Killingsworth、Does Mind-Wandering Make you Unhappy?、GGSCMagazine、2013
(2)ジョン・カバットジン、毎日の生活でできる瞑想、田中麻理他訳、星和書店、2012

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