いつでもどこでもマインドフルネス                            竹腰重徳 

 マインドフルネスとは、どんな状況でも今この瞬間・瞬間の出来事に集中し、起こっている現象に気づく能力といえます。マインドフルネスを鍛えることにより次のような効果があることが、脳科学的に実証されています。
  ・自己認識や自己コントロールの能力が向上し、ストレスが軽減される
  ・感情のコントロールができるようになり、感情的な判断ミスをしなくなる
  ・集中力が向上し、生産性につながる
  ・思いやりの気持ちが育ち、チームワークが向上する
  ・アイデアが湧く脳になり、創造性が高まる
 このような効果を得るためには、時間を予め決めた毎日の訓練が望ましいのですが、日々忙しくて、決まった時間、10分間でもなかなか取れないという人も多くいます。しかし、1日の中である程度の時間をとり、じっと座って瞑想をすることだけがマインドフルネスの訓練ではありません。日常生活の中で訓練するチャンスはたくさんあるのです。

 日本でマインドフルネス第一人者のひとりである早稲田大学人間科学学術院の熊野教授が推奨しているラリー・ローゼンバーグが書いた「呼吸による癒し」の「第6章日常生活とともに呼吸する」が日常のマインドフルネス訓練に参考になります(1)。ローゼンバーグ自身の日常生活でのマインドフルネスの経験を述べています。食物に注意を向けて食べる、注意を向けて皿洗いをする、地下鉄に乗っている間は呼吸に注意を向ける、街を散歩するときは足や呼吸に注意を向ける、会話中に相手の言うことに注意を向けるなど、日常活動に中に多くの時間や活動が訓練の場となります。

 「マインドフル・リーダーシップ」の著書であるマリア・ゴンザレスは、1日の中で予め瞑想時間が取れない忙しい人に「マイクロ・メディテーション」(プチ・メディテーション)をすすめています(2)。「マイクロ・メディテーション」は、1回1~3分の短い瞑想を1日数回実施するという方法です。1日の空いたときに、呼吸に注意を向けて、どのような呼吸をしているかに気づくことです。浅い呼吸か深い呼吸か、息を吸い込むとき息を吐くとき肺やお腹など身体の動きはどのようになっているかに注意を向けます。心が過去や未来にさまよってきたら、それに気づき、何の評価もせず、呼吸に意識を向けなおします。この短時間のマイクロ・メディテーションを継続的に実践すれば、やがて注意力や平静さが増してくるのに気づいてきます。

 筆者は、ラリー・ローゼンバーグやマリア・ゴンザレスの実践例を参考にして、いつでもどこでも機会をとらえて日常生活の中でマインドフルネスの訓練を実践しています。通勤途中で自宅から最寄りの駅まで歩く間、呼吸と両足の動きの感覚に注意を向けながら歩いています。通勤電車に乗ってつり革をもって立っているとき呼吸に注意を向けます。信号待ちのとき、エレベーターを待っているとき、それぞれの待ち時間に呼吸に注意を向けます。ジムでのエクササイズのとき、ストレッチやジョギングで呼吸や筋肉の感覚に注意を向けます。一人で昼食のときは、食物に注意を向けます。呼吸、足、筋肉、食物など注意を向けている対象から意識が逸れて心が過去や未来にさまよい出したら、それに気づき、評価をせずに注意を向け直すという方法で実践しています。

参考資料
(1)ラリー・ローゼンバーグ、呼吸により癒し、井上ウィマラ訳、春秋社、2001
(2)Maria Gonzales、Mindfulness for People Who Are Too Busy to Meditate、HBR、2014


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