マインドフルネス瞑想の脳科学                                竹腰重徳 

 マインドフルネス瞑想は、気づく力と集中力が高まる、ストレスが軽減され心が穏やかになる、EQ(感情知性)が高まり心が安定する、頭が明晰になり洞察力が高まる、などの効用により、グーグル、IBM、インテル、P&G、フォードやスタートアップ企業などの欧米企業に社員研修プログラムとして取り入れられている。また、脳科学の面からも多くの大学や研究機関の脳科学研究者によって、実証研究が行われ、脳との関係性なども科学的に解明されつつある。

 機能的磁気共鳴画像装置(fMRI:functional Magnetic Resonance Imaging)は、脳のどの部分が活性化しているかをリアルタイムに表示できることが出来る医療用計測器であるが、fMRIが脳科学の解明に役立っている。これにより、研究者たちは、脳がそれまで信じられていたような固定的なものでなく、神経経路が時間とともに変化していくことを発見した。脳は絶えず変化し、訓練が可能で、プラスティックのように可塑性がある。これは私たちの感情や思考、反応をつかさどる神経回路は訓練によって再接続ができるということである。ウィスコンシン大学の脳科学者リチャード・デビッドソンは「心は脳を変えることができ、変化した脳は心を変える」といっている(1)。

 人間の思考などの中枢である大脳皮質は、前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉と左脳、右脳の各部に分類される。左脳、右脳は脳梁でつながっている。大脳皮質の内側は白質と呼ばれ、大脳皮質の神経と他の神経をつないでいる。大脳皮質は、人間の知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、高次機能を司る人間が生きていくうえで必要な事柄の司令塔である。ハーバード大学の研究グループが、仏教の瞑想法を長期間修行してきた人たちの脳を調べたところ、前頭前皮質(ブロードマン領野9および10)と側頭葉の島皮質における脳組織の体積が、普通の人たちよりも大きくなっていることが明らかにした。脳のこれらの領域は注意、感覚情報、体内感覚の処理といった役割を担っている。この結果は、瞑想が脳の構造を変えるという証拠であり、加齢に伴って前頭皮質の体積が減る傾向を、瞑想によって抑制できる可能性を示している。ほかの研究では、記憶、自己認識、ストレス、共感などと関連する部位に顕著な変化がみられた結果が報告されている(1)(2)。

 大脳辺縁系は、扁桃体、海馬などで構成されており、人間の脳で情動の表出、食欲、性欲、睡眠欲、意欲、などの本能、喜怒哀楽、情緒、神秘的な感覚、睡眠や夢などをつかさどっており、そして記憶や自律神経活動に関与している。私たちがストレスにさらされると、海馬と扁桃体が活性化される。海馬は五感から情報を受け取る。もし海馬が目の前の状況を危険と判断すれば、扁桃体を活性化させる。扁桃体が活性化されると、戦うか逃げるかの選択を迫られる緊迫した身体反応が発動される。体内にストレスホルモンといわれるコンチゾールをはじめとするホルモンを発生させ、血圧を上げ、私たちの判断力を鈍らせる。このとき私たちは怒ったり過剰に反応したりして、往々にして状況を悪くしてしまう。扁桃体がいつも増強されていると興奮しやすくなり、ちょっとした出来事に敏感になってしまう。ほんのわずかなマインドフルネスの実践が、興奮しやすく敏感になった扁桃体に対して大きな抑止力となる。マサチューセッツ総合病院による研究結果では、わずか八週間の瞑想で扁桃体が縮小したという。つまり、マインドフルネスを実践すれば、刺激に過剰に反応したり、怒りに身を任せてしまうことを防ぐことができる。こうした変化は持続される。マインドフルネスが脳を変えるのは瞑想している間だけでなく、効果は持続する。瞑想による扁桃体の縮小を明らかにしたその同じ研究で、瞑想によって養われた感情抑制の能力が、瞑想を終えたあとも持続することが確認された(1)(3)。

 これらの脳科学の研究は、瞑想が経験豊富な瞑想実践者の脳の機能・構造両方の有意な変化を証明したにとどまらず、瞑想が身体の健康にとって重要な生物学的プロセスに大きな影響を与えることを実証し始めている(4)。
                                                                          
参考資料
(1)デイヴィッド・ゲレス、マインドフルワーク、岩下慶一訳、NHK出版、2015
(2) http://www.akira3132.info/cerebral_cortex.html
(3) http://www.akira3132.info/limbic_system.html
(4)リチャード・デビッドソン他、瞑想の脳科学、日経サイエンス、2015-01

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