実行機能を高めるマインドフルネス                     竹腰重徳

 脳の実行機能(Executive Function)は、ある目標を達成させるために計画的に段取りをつけて行動する機能で、人が社会的、自立的、創造的な活動行うのに非常に必要な機能とされ、脳の認知機能の中で最上位に位置しており司令塔的な役割を果たします。つまり、複雑な課題を遂行するうえで必要となる思考や行動を選択・制御する機能で、目標を達成するために自分をコントロールする能力のことです(1)。日常の複雑な課題をやり遂げられるようになるには、実行機能の向上が不可欠で、その能力はマインドフルネスの訓練によって強化することができます(2)(3)。

実行機能には、要素として、1)抑制、2)ワーキングメモリ、3)認知的柔軟性の3つの主要な機能が含まれるとされています。
1)抑制
   必要に応じて反応的、衝動的な行動や思考を意図的に止める機能です。例えば仕事中に仕事に集中できず「同僚と雑談がしたい」「スマホを見たい」という欲求が出てきた場合、それらを我慢する能力のことです。つまり、常に脳に入ってくる様々な情報から、今必要でないものに反応するのを抑制する能力です(これが弱いとその都度脳に入ってくる様々な情報に反応し、注意がそれ、物事に集中できず、目的を完遂できません)。
 2)ワーキングメモリ
   ワーキングメモリ(Working Memory)とは、課題を達成する必要な情報を短期間記憶し、処理する能力のことです。会話や読み書き、計算などの基礎となり、私たちの日常生活や学習を支える重要な機能です。例えば、読書する場合、ワーキングメモリに内容を覚えておいて、読み終えるまで記憶を保持することで一冊の内容を理解することができます。
 3)認知的柔軟性
   課題を遂行するうえで、新しい要求やルール、優先事項に対応し、自分の視点や問題へのアプローチを柔軟に切り替える能力のことです。状況に応じて臨機応変に対応したり、うまくいくまで試行錯誤するための能力といえます。例えば、プロジェクトを遂行していくうえで大事なことは、何が大事で何が枝葉であるか見極め優先順位をつけてプロジェクトをどのように遂行するかを柔軟に考えプランを立てて遂行することです。また、プロジェクトの遂行中に、状況に応じて柔軟に頭を切り替える必要があります。企画していた新製品と類似した製品が競合他社から販売されることを知った場合には、プロジェクトの方向性を考え直す必要があるかもしれません。

いずれの要素も、必要に応じて自らの注意を能動的にコントロールすることが重要となるため、「今この瞬間に生じている自分自身の体験に対して余計な判断を加えず、優しく注意を向ける」というマインドフルネスの訓練は、実行機能の向上に有効であるとされています。マインドフルネス訓練では、自分の呼吸や身体感覚などに注意を向けているとき、思考や音などにより注意がそれたことに気づいたら、注意を向けていた対象にやさしく戻すことが求められます。その繰り返しが、目標志向的な活動において目標に競合する内的・外的情報の存在により敏感になることをもたらし、注意や行動の制御能力が高まることにつながっていると考えられ、抑制や認知的柔軟性の強化につながります。ワーキングメモリには前頭葉という脳の前側の部分が重要な役割を果たしています。何かを一時的に記憶している間は、この前頭葉の一部が活動し続けています。ワーキングメモリに重要な前頭葉の体積が、マインドフルネスの訓練により大きくなることが知られており、脳の仕組みからもその効果が裏付けられています。このようにマインドフルネス訓練は、私たちの日常活動に不可欠な実行機能の向上に役に立つことが、脳科学的に実証されています。
 
参考資料
(1)森口佑介、自分をコントロールする力、講談社、2019
(2)田中圭介、杉浦義典、実行機能とマインドフルネス、心理学評論Vol58、No1、2015
(3)関口貴裕、マインドフルネストレーニングは実行機能の何を変えるのか、心理学評論Vol58、No1、2015


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