マインドフルネスの気づきの機能                            竹腰重徳

   マインドフルネスの訓練は、気づきの機能を鍛えることを目的とします。気づきとは、今の瞬間に自分の内外で起こっていることを、よく観察し、変化を認識することです。それにより、自分がコントロールできること、できないことを意識化してくれます。そして自分にとって今何が必要なのかを見極め、次の最適な行動の選択ができるようになります。気づきには基本的な機能が3つあるそうです(1)、(2)。
①気づきはすべきことを思い出させる。②気づきは物事をありのままに観察する。➂気づきはあらゆる現象の本質を見る。ひとつずつ見ていきましょう。

①気づきはすべきことを思い出させる
 マインドフルネスの訓練では、心を一つの観察対象(例えば呼吸)に注意を向けます。観察対象から注意が逸れたとき、注意が逸れたということに気づくことができ、そしてすべきことを思い出させます。それが気づきです。気づきは注意が逸れたということを気づかせ、注意を観察対象に戻すのです。このことが思考を介さず、即座に起こります。
繰り返しマインドフルネスを実践することによって、気づきが習慣として身に付き、日常生活に活かせるようになります。私たちは、これまで自動操縦モードになれ、心は過去や未来の妄想にはまり込んで上の空となり、目の前のやるべきことが進まなくなるということを経験しています。上の空から抜け出す方法が、気づきなのです。気づきが今にあるなら、上の空になったとき、それに気づくことができます。まさに気づくことによって上の空から離れることができ、上の空から解放され、やるべきことに注意を戻すのです。この時座って瞑想しているなら、注意は呼吸に戻るでしょうし、仕事をしているなら、注意は仕事に戻るでしょう。

②気づきは物事をありのままに観察する
  気づきは、認識したものに判断したり批判したりせずに、ただありのままに観察することです。気づきは、観察したものに何も付け加えたり差し引いたりしません。何も歪めないのです。気づきはありのままに観察することであり、生じたものすべてに評価や判断せずに、ただ観察することです。他方、いままで私たちは、観察したものを自己流に解釈し、実際起こっていることに余分なものを貼り付けます。そして、頭を概念や意見でいっぱいにし、計画、悩み、恐怖、幻想、不安などひどく混乱している渦の中に浸らせます。気づきは、ただありのままに観察するだけです。

➂気づきはあらゆる現象の本質を見る
 気づきは、観察したものすべてが、常に変化しているという「無常」を見ます。私たちの身体や心や自然界を観察すると、時々刻々変化していること、固定することなく瞬間的であるという性質を見ます。すべての現象に「無常」を認識していくと、すべての現象は思い通りにいかないという「苦」の性質を見ます。身体も、感覚も、愛する人も、好きなものも、あらゆるものが変化し過ぎ去って消えるということを見るとき、「苦」を感じます。瞬間的な現象にしがみつくことは、ムダであることを見ます。すべての現象は、絶えず変化しており、あるのはプロセスなのです。すべての現象は本質的に瞬間的で、絶えず変化して流れているだけです。すべての現象は、固定した実体はなく、常に変化し続ける原因や条件によって成り立っていることを見ます。これを「無我」といいます。これらの特質、無常・苦・無我は本質的に一体であり、これらのことが、ほんの瞬間にすべて起こっているのです。これらの現象の本質が見えるようになると、物事を洞察できる智慧が得られるようになり、自分にとって今何が必要なのかを見極め、次の適切な行動の選択に導いてくれるようになります。

 気づきを訓練する方法がマインドフルネスの実践です。繰り返し実践を継続することで、気づきが強化され、何事にもどんな状況に置かれようとも、明晰で冷静に思いやりをもって観察し、対応できる能力を日常生活に生かせるようになるでしょう。

参考文献
(1)バンテ・H・グナラタナ、マインドフルネス、出村佳子訳、サンガ、2018
(2)バンテ・H・グナラタナ、エイト・マインドフル・ステップス、出村佳子訳、サンガ、2019

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