一期一会とマインドフルネス                           竹腰重徳 

 「一期一会(いちごいちえ)」とは? 一期一会の「一期」とは、一生涯、生まれてから死ぬまで、「一会」とは一度だけの出会いという意味です。「どの茶会でもその機会は二度と繰り返されることのない生涯に一度しかない出会いであると心得て、主客ともに誠意をつくすべきである」という心構えを説いた言葉です。一期一会は、茶会に限らず、広く人とのつながりをとらえて「あなたとこうして出会っているこの時間は、二度と巡っては来ないたった一度きりのものです。だから、この一瞬を大切に思い、今出来る最高のおもてなしをします」という意味でも用いられます。さらに、人と人との出会いだけでなくて、「私たちが体験するすべてが、一生に一度の機会と心得て、今という瞬間を大切にして最善を尽くす」という意味でも使われています。

 一期一会を現在・過去・未来のうち、どれが当てはまるかといえば、当然現在です。しかも現在進行形の事なのです。今を大切にするのが一期一会なのですが、それは今と言っても刹那的な「今だけ」という意味ではなくて、未来につながる今なのです。今のこの瞬間、最大のおもてなしをするために自分はどうあるべきか、どうすべきかを考えて行動するのが一期一会なのです。一期一会は、私たちの人生が、その一瞬、一瞬のみに展開しているのだという事実に気づき、かけがえのない今というこの瞬間を、注意を集中して最善に行動することであることとも言えます。マインドフルネスとは、今この瞬間のみが自分が手にできるもののすべてであることを理解し、今現在を人生最大の焦点とする心のありようのことです(1)。一期一会は、「心をマインドフルネスにして、今という瞬間に注意を集中して最善を尽くすこと」といえます。

 しかし、今という瞬間に注意を集中することは大変難しいのです。皆様は、仕事中に今朝見たニュースのこと、晩飯のこと、明日のスケジュールのことなど心がさまよい、今現在行っている仕事に集中できないことを多く経験していませんか。会議に集中せずに別のことを考えていて、会議の中味がわからなくなることはありませんか。私たちは、目の前の事柄に集中しようと思っても、さまざまな考えがいつの間にか、浮かんでくることは避けようがありません。会議に集中しようと思っても、「この後の予定は何であったであろうか」「こんなことしていて本当に意味があるのかな」と自然に別の考えが浮かんできたりします。目の前のことに集中していない心の状態、ぼんやりと無自覚に考えごとをしている状態、過去や未来に必要以上に思いを巡らせて心がさまよった状態で、心が集中できず、別のことを考え散漫になることがたびたび発生します。大抵の人が、今という瞬間に注意に集中しようとしても、すぐ心がさまよった状態になり、今という瞬間に全力を尽くして注意を集中することが難しいのです。

 心を今という瞬間に注意を集中するにはどうしたらいいでしょうか。気づきの能力と集中力を上げるマインドフルネス実践による訓練が役に立ちます。マインドフルネス実践を継続して訓練することにより、私たちの心に物事に対する気づきと集中力を高めてくれます。マインドフルネスの実践では、現在生じている何かの対象を決め、それに注意を向ける訓練をします。対象は、呼吸、食事、歩行、トイレ掃除などいろいろありますが、呼吸は、私たちは生きている間、息を吸ったり、吐いたりしていますので、いつでも利用でき対象としては最適です。自然な呼吸の感覚に注意を向けてしばらくすると、意識は呼吸から離れ、過去のことや未来のことを考えたりして心に思考が生じてきます。そのようなことが起きること自体は、自然なことで、悪いことはありません。訓練は、生じた思考に気づき、何の評価をせずに受け入れ、再び意識を呼吸に戻します。それの繰り返しがマインドフルネスの訓練になります(2)。そして、それが一期一会の生き方の訓練にもなるのです。

参考資料
(1) ジョン・カバットジン、毎日の生活でできる瞑想、田中麻理他訳、星和書店、2012
(2) 熊野宏明、実践マインドフルネス、サンガ、2016
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