デザイン思考に役立つOODAループ                   竹腰重徳

  イノベーションを実現するツールとして注目されているのが、「デザイン思考」です。デザイン思考は人間中心のアプローチを行い、問題の本質を明らかにして解決していく方法です。製品企画チームが、ターゲットとなるユーザーのところに行き、ユーザーの行動を徹底的に観察し、ユーザーの気づいていない潜在的問題も明確にして問題定義を行い「本当の欲求」「本当の課題」を探り出します。次に定義された本当の欲求や課題から創造性を発揮してソリューションを導き出して、プロトタイプを作り、ユーザー体験をしてもらいます。そしてユーザー体験のフィードバックを得ながらソリューションを改善していくというプロセスを繰り返しながら、革新的な顧客価値を素早く作り出していきます(1)。

 デザイン思考の実践で役立つフレームワークの一つが、「OODAループ」です。OODAループとは、「観察(Observe)」「情勢判断(Orient)」「意思決定(Decide)」「行動(Act)」という4つのプロセスをサイクルでなく、ループさせる(繰り返す)ことで、目の前で起こっている環境に合った判断を現場レベルで迅速に行い、個人や組織の目的を達成するための高速意思決定手法です(2)。まず、取り巻く環境(相手や自分の物理的、心理的、精神状況含む)を「観察」し、観察したものすべてが何を意味するかについて、文化や過去の経験などから分析・統合して「情勢判断」をしてどうするかの方向性を出し、方向性の中から「意思決定」を行い、それを「行動」するといったプロセスを目的達成まで繰り返します。また、途中状況の変化に応じて「観察」「情勢判断」「意思決定」「行動」の4つのプロセスを繰り返すことにより、機敏な行動で対応してきます。

 具体的にデザイン思考の場面でのOODAループの適用について述べていきます。イノベーティブな製品を作ることが決定されたら、製品企画チームが、ターゲット・ユーザーのところに行き、ユーザーの行動を徹底的に観察します。これは、まさにOODAループの「観察」です。次に観察したデータからユーザーの特徴・価値観・課題・目標などを分析して対象となるペルソナ(顧客像)を描きます。このプロセスではユーザーを分析することが「情勢判断」に当たり、ペルソナと利用して書こうという決定が「意思決定」であり、実際に書くということが「行動」に当たります。もしペルソナを描く途中不明なことが出たら、再びユーザーを観察しなおします。これは「行動」から「観察」へのループに当たります。次にペルソナを見て、課題の原因の検討や真のニーズを導くための問題定義を行って、顧客の行動パターンを時系列的に理解するためのカスタマー・ジャーニー・マップを作成します。このプロセスでは、ペルソナを見るのが「観察」で、顧客の行動パターンを分析するところが「情勢判断」に当たります。カスタマー・ジャーニー・マップを作成するという決定が「意思決定」であり、実際に作成することが「行動」に当たります。

 以下同様なやり方OODAループを使って、創造性を発揮してソリューションを導き出し、最終的にプロトタイプを作成し、ユーザー経験をしてもらいます。ユーザー経験を観察して、ユーザーからのフィードバックを得ます。フィードバックは、ユーザー経験の「観察」です。その結果、分析をするという「情勢判断」をして不具合があれば、その原因を探り、修正し、再度プロタイプ、ユーザー経験等、ループを繰り返して、真にユーザーが期待する製品していきます。このようにしてOODAループをデザイン思考のプロセスに適用すれば、迅速に、ユーザーのニーズに合ったイノベーティブな製品開発を行うことできます。

参考資料
(1) ティムブラウン、デザイン思考が世界を変える、千葉敏生訳、早川書店、2014
(2) チェット・リチャーズ、OODA LOOP(ウーダループ)、原田勉(訳・解説)、東洋経済、2019
                       HOMEへ