OODAループとアジリティ                   竹腰重徳

  OODAループは、米国空軍の元戦闘機パイロットのジョン・ボイド(1927~1997)が、自身の経験をもとに兵法の考え方などを参考にして、軍事だけでなくビジネスにも役立つ手法として開発したものです。OODAループの頭文字は、観察(Observe)情勢判断(Orient)決定(Decide)行動(Act)の略で、軍事やビジネス世界、個人などで共通に使用される意思決定プロセスです。アジリティ(機敏)と速い意思決定を活用して、戦いに勝つために開発されました。これは、競争相手より速く、状況をよく観察し、客観的、論理的に考察して行動することを意味します。ボイドは、勝利に導く概念として「アジリティ」という言葉を好み、たびたび使っていました。彼は、「アジリティとは、外部の世界で起こっている目まぐるしい環境変化に即応して、自らの方向性(進むべき道)を現実世界に十分に適応し続けることである」と定義しています。つまり、状況の変化に対応して、素早く的確に方向を変化させる能力といえます。

 ボイドは、戦いに勝つためのアジリティの概念に関して、2500年前の孫子の兵法から、勝利に導くためにスピードと的確な意思決定が重要であることを見出しました。孫子は、スピードに関しては、「スピードは戦争の本質である」と述べています。一方、的確な意思決定に関しては、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」と述べています。

 ビジネスの世界では、アジリティが勝利をもたらした事例として、1980年代の18ヵ月続いたオートバイに関するホンダ・ヤマハ戦争が挙げられています。ホンダは、ヤマハのシェア挑戦に対して、アジリティを武器に対応することを選択しました。その結果、ホンダは113種類ものニューモデルを投入できましたが、ヤマハは37種類のニューモデルしか投入することができませんでした。ホンダは、アジリティを生かしてニューモデルをただ濫作したわけではなく、消費者がなぜニューモデルを受入れ、なぜ受け入れないかを学び、それによって製品を改善していきました。その結果、この期間中ホンダと消費者の好みはともに進化していき、ヤマハの製品は、ホンダに比べ単調で創造的でないと見られました。その結果、ヤマハは敗北を宣言し、戦いは終わりました。ホンダは、アジリティによって意思決定のサイクルタイムを短くすることで市場機会を作り出し、顧客に購入したいと思わせる製品を投入していったのです。

 ボイドは、戦闘やビジネスなどのいかなる形の競争であれ、曖昧さや混乱、急激な変化などが生じているとき、勝つためにアジリティを発揮して変化に適応し続けることにあると述べています。また、アジリティを実現するには、組織やチームの組織文化が重要であると述べ、以下のような4つの要素を上げています。アジリティな組織にするための参考になります。

① 直観的能力(スキル)
 メンバー個人が、変化する不確実な状況の下で、「直観的に何をすべきかを知り実行する」ことを可能にする能力で、素早い意思決定と行動に結びつきます。この能力は長年の厳しいトレーニングと経験から得られるものです。
② 相互信頼
 グループを結束したお互い信頼し合える小さなチームに変えます。相互信頼は共通の体験とお互いに尊敬し合うことによって育まれます。メンバー間の暗黙のコミュニケーションやメンバーの創造性が促進され、チームとして素早い意思決定と行動に結びつきます。
③ 焦点/方向性
 目先の優先事項とそれをサポートするためにチームが何をすべきかについて共通に理解することです。焦点が明確であれば、各メンバーは柔軟に率先して動くことができます。何をすべきかを他人に聞くことなく、判断、調整、管理を自らできるので素早い意思決定と行動に結びつきます。
④ ミッション/権限移譲(リーダーシップ契約)
 リーダーは、メンバーに明確に定義されたミッションを与え合意を得ます。ただしリーダーは、メンバーが目的を達成する細かい指示は行いません。メンバーには、自主的に実行の柔軟性と創造性を可能にするために権限移譲します。それにより現場での素早い行動に結びつきます。

参考資料
(1) チェット・リチャーズ、OODA LOOP(ウーダループ)、原田勉(訳・解説)、東洋経済、2019
(2) Alex、How Great Engineering Managers Identify and Respond to Challenges – the OODA Loop Model、2020
(3) Joseph Paris、OODA and Agility; Reaching a Conclusion Faster、2019
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