自己肯定感を高めるマインドフルネス                   竹腰重徳

 自己肯定感とは、自分が価値ある人間であり、自分の存在を大切に思う気持ちのことです。この感覚は、他人と比べて優れているかどうかで自分を評価するのでなく、そのままの自分を認める感覚であり、自分は大切な存在、自分はかけがえのない存在、と思える心の状態が土台となります。自己肯定感が高い人が充実感をもって人生を送ることができるのに対して、そうでない人は、いつもくよくよ悩みがちで、いつも不安を抱え、場合によっては心を病んでしまうということにもなりかねないのです(1)。

 内閣府が実施した日本を含めた7か国(韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン)の満13~29歳の若者を対象とした意識調査(我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成25年度))は、自己認識(自己肯定感、意欲、心の状態、社会規範、社会参加、将来像)、家庭、学校、友人関係、職場、結婚、育児の6つの項目を調査・分析し、日本の若者は自己肯定感が非常に低い衝撃的な調査結果になっています。自己肯定感の観点では、「自分に満足しているか?」の質問に対して「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した者は、日本以外の6か国は71.5~86%だったのに対して、日本は45.8%で最も低い結果でした。「自分には長所があるか?」の質問に対して、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した者は、日本以外の6か国は73.5%~93.1%だったの対して日本は68.9%で最も低い結果でした。自己肯定感では諸外国と比べて、自己を肯定的に捉えている者の割合が最も低いという結果です。さらに「将来像では、諸外国に比べて、自分の将来に明るい希望をもっていない」、という結果になっています。また職場の満足度を聞いた項目では、日本以外の6か国の職場の満足度は55.3~79.3%だったのに対して、日本は46.1%で最も低い結果でした。これらの調査結果の分析から、「自己肯定感を高める対策を取ることが急務である」と結論付けてしています(2)。

 自己肯定感を高める方法の一つとして、心療内科医で僧侶の川野泰周氏はマインドフルネスの訓練をすすめています(1)。マインドフルネスの訓練は、簡単にいうと、今ここにある一つの現象に意識を集中させて気づく訓練です。現在、私たちが仕事をするときは同時にいろいろな仕事をするマルチタスクが当たり前になっていますが、マルチタスクにより脳のエネルギーを大量に消費し、脳疲労が蓄積されます。マルチタスクを止め、一つのことに集中して仕事をすることにより、脳疲労も軽減され、脳にエネルギーが充填されて、結果として仕事の効率も上がるのです。

 具体的な訓練としては、通常無意識に行っている呼吸に、あえて意識的に注意を向け、鼻に出入りする空気の流れの感覚に注意を向けて観察し気づきます。途中思考が湧いて呼吸から心が逸れたら、その内容を何も評価せずに受け入れ、思考が湧いたなと気づいた自分をほめ、やさしく呼吸に注意を向けなおします。このように今起こっていることに注意を向けて気づく練習を繰り返すことで、自分の良さも悪さも受け入れ、ありのままの自分を受け入れるようになります。また不安やネガティブな思考や感情をそのまま受け入れることにより、それらのエネルギーも弱まっていきます。つまり、マインドフルネスの訓練によりありのままの自分を認めることができるようになり、不安やネガティブな思考や感情を減少させることにもつながり、自己肯定感が高まっていくのです(1)。

参考資料
(1)川野泰周、人生がうまくいく人の自己肯定感、三笠書房、2018
(2) 内閣府、今生きる若者に意識~国際比較からみえてくるもの~、子ども・若者白書、平成26年版、2014
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