ストレス反応とマインドフルネス                   竹腰重徳

 心や体にかかる外部からの刺激をストレッサー(ストレス要因)と言い、ストレッサーに適応しようとして、心や体に生じたさまざまな反応をストレス反応と言います。敵が目の前に現れたとき(この場合、敵がストレッサー)、敵と戦うのか逃げるのかといった行動のために、心と体はさまざまなストレス反応を起こします。脳科学的には、まずは敵を認識して脳の扁桃体が恐怖に対する反応を起こします。その反応が視床下部を経由して脳下垂体から副腎皮質刺激ホルモンを出し、最終的に、神経伝達物質のアドレナリンとコンチゾールを出します(1)。

 アドレナリンはノルアドレナリンを作り、交感神経を刺激して、体はいつでもストレスと戦える準備を整えます。ノルアドレナリンは、分泌されると覚醒作用を示し、心拍数や呼吸数、血圧を上げて体を緊張・興奮状態にします。メリットとして、やる気を高めるほか、集中力や判断力、長期的な記憶力を高めたり、ストレス耐性を強めたりする作用もありますが、これが過剰に分泌されるとイライラしやすくなり、高血圧や狭心症、心筋梗塞、不整脈、脳卒中などの原因になります(1)。

 コルチゾールは、ストレスを受けた時に分泌が増えることから「ストレスホルモン」とも呼ばれています。コルチゾールの主な働きは、肝臓での糖の新生、筋肉でのたんぱく質代謝、脂肪組織での脂肪の分解などの代謝の促進、抗炎症および免疫抑制などで、生体にとって必須のホルモンで、戦うために必要なエネルギーを蓄えます。さらにコンチゾールは、ストレスによる脳の機能低下や血糖値の低下などを防ぎ、免疫力を高めてくれます。しかし、過度のストレスで過剰に分泌されれば、自律神経のバランスを崩すだけでなく、血圧や血糖値が上がり過ぎてしまい、結果的に免疫力を低下させます。過度なストレスが続きコルチゾールの分泌が慢性的に高くなると、うつ病、不眠症などの精神疾患、生活習慣病などのストレス関連疾患にかかる危険が生じます。これらの反応はいずれも敵と戦うか、逃げるための反応です。ストレスを感じたときに心臓がバクバクするのは、血液をたくさん体に送り込むためです。血糖値と血圧を上げて、たくさんのエネルギーを筋肉に送り込み、目の前の敵に対処するための準備をします。このようにストレス反応は命を守るために、起こっている反応です(1)。ストレス反応があるからこそ、獣などの敵にやられることなく、私たちの先祖は生き残ることができました。

 職場には仕事の量や質、対人関係をはじめさまざまなストレスあり、身体がストレス反応を起こしうることが分かっています。職場でのストレスは、原始時代に獣と対面した時のように、戦うか逃げるのかといった反応をする必要がありません。しかし、身体は原始時代と同様に反応してしまいます。職場にあるさまざまな課題解決しようとするときも、身体はたくさんのエネルギーが必要だと判断し、ストレス反応を引き起こします。そう考えると、ストレス反応は私たちの大きな味方なのです。しかし、課題解決のためのストレス反応が四六時中起こると、過剰なストレス反応となり、これが職場のストレスの問題となってしまいます。

 過剰なストレス反応を低減する方法の一つがマインドフルネスの実践です。マインドフルネスの実践は、今この瞬間内外に起こっている現象に注意をむけ、よいとか悪いとか評価せずに受け入れ、起こっている状況に気づく能力をつける心のトレーニングです。脳科学的には、理性的な判断をする前頭葉が強化され、感情に反応する扁桃体が暴走しなくなり、それにより冷静に対応できるようになり過剰なストレス反応をしなくなり、ストレス低減に役立ちます(2)。強いストレスとなるような課題が発生した時に、その課題に対して直ちに反応するのでなく、一旦よいとか悪いとか評価せず課題を受け入れ、自身の置かれた状況を広い視野から観察することが可能となり、危機的な状態から抜け出すための方法を柔軟にできるようになります。

参考資料
(1) 大阪商工会議所、メンタルヘルス・マネジメントⅡ検定テキスト、中央経済社、2010
(2) 久賀谷亮、脳疲労が消える最高の休息法、ダイアモンド社、2017
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