ストレスは役立つ                           竹腰重徳

 ストレスが健康に及ぼす悪影響については、メディアや医療分野で注目されていますので、多くの人は、ストレスは健康に悪いと考えて、不快なストレスや強いストレスは減らしたい、ストレスのない環境で仕事や生活をしたいと考えています。しかし、ストレスのすべてが悪いわけではありません。ストレスには役に立つストレスもありますので、ストレスから逃げずにうまく付き合うことがすすめられます。それにはストレスに対する考え方を「ストレスは役立つ」という考え方に変えることにより、ストレスを避けずにマインドフルネスに受け入れることでストレスを克服し、自分の成長にもつなげられます。

 一般的に「ストレスは健康に悪い」という考えが根底にあるため、ストレスを避けようとします。しかし「ストレスは良い」という考えを持って対処すると、ストレスが人生や健康に役立つのです。1998年米国で3万人の成人を対象に行われた調査で、「この1年間のストレスをどのくらい感じたか?」と「ストレスは健康に悪いと思うか?」の2つの質問が行われました。8年後の追跡調査では、3万の参加者のうち誰が亡くなったかを調査しました。調査の結果、強度のストレスがある場合には、死亡リスクが43%高まっていたことがわかりました。その内容を詳しく調べた結果、死亡リスクが高まったのは、「ストレスは健康に悪い」と考えている人たちだけに発生したもので、「ストレスは健康に悪い」と思っていなかった人たちには、死亡リスクの上昇は見られなかったどころか生き生きと健康になっていたのです。

 ストレスに対する研究で、ストレスホルモン(コンチゾールとデヒドロエピアンドロステルン)の分泌が影響することが明らかにされています。ストレスを感じたときにコンチゾールとデヒドロエピアンドロステルン(DHEA)が副腎から分泌されます。コンチゾールは糖代謝や脂質代謝を助け、体と脳がエネルギーを使いやすい状態にします。また、消化や生殖や成長など、ストレス時にはあまり重要でない生物的機能を抑える働きがあります。DHEAは神経ステロイドの一つで、脳の働きを助ける男性ホルモンで、ストレスの経験を通じて脳が成長するのを助けます。またコンチゾールの作用を抑制し、傷の治癒を早め、免疫機能を高めるなどの働きがあります。コンチゾールに対するDHEAの割合が高いとストレスに負けずに頑張ろうとします。

 ストレスが健康に悪いと思っている人は、ストレスから逃れようとするので、DHEAの分泌量が少なく、体力・集中力・自制心の低下、充実感の低下が起こります。一方、「ストレスは大切だ」思う人は、DHEAの分泌量が多くなり、不安があるから不安を解消しようとして学習して頑張り、緊張があるから結果が出せるとストレスを乗り越えようとチャレンジします。そしてやる気や能力が高まり、血管、脳、心臓などの老化が穏やかになり、不安症、うつ病、不眠症などが減る、などの体に良い結果をもたらします。不安やくやしさはやる気や成長を促し、緊張は集中力を発揮させ、痛みは病気の発見、恐怖は大切なものを守る力を出させるなどのストレスのプラス面を見ると、ストレスは私たちを苦しめるのではなく、私たちを守るためにあり、「ストレスは役立つ」という考え方も納得できるのではないでしょうか。

 何かの行動の途中で怒りなどのストレスを感じた時、感情的に自動反応するのでなく、一旦深呼吸などして、ストレスだなと逃げずに受け入れのです。そうするとストレスは役立つという思いが起こり、ストレスの解決にチャレンジしようという心になるのです。ストレスに自動反応するのでなく、逃げずに受け入れるようになるには、マインドフルネスの訓練が役に立ちます。マインドフルネスは、今この瞬間内外に起こっている現象に注意を向け、良いとか悪いとか評価せずに受け入れ、起こっている現象に気づく能力です。

参考資料
(1)ケリー・マクゴニガル、スタンフォードのストレスを力に変える教科書、神崎朗子、大和書房、2019

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